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東京地方裁判所 平成5年(ワ)3430号 判決 1995年11月09日

原告(反訴被告)

日本マクドナルド株式会社

右代表者代表取締役

藤田田

右訴訟代理人弁護士

柴田政雄

山口宏

被告(反訴原告)

株式会社アサ・コーポレーション

右代表者代表取締役

荒川徳太郎

被告

荒川徳太郎

右被告ら訴訟代理人弁護士

荒井鐘司

右訴訟復代理人弁護士

岡崎国吉

主文

一  被告(反訴原告)株式会社アサ・コーポレーション及び被告荒川徳太郎は、別紙物件目録(一)記載の道路上に妨害物を設置する等して、原告(反訴被告)の従業員及びその顧客が右道路上を通行することを妨げてはならない。

二  被告(反訴原告)株式会社アサ・コーポレーション及び被告荒川徳太郎は、原告(反訴被告)に対し、連帯して金四九三万一三四二円を支払え。

三  原告(反訴被告)のその余の本訴請求を棄却する。

四  被告(反訴原告)株式会社アサ・コーポレーションの反訴請求のうち、別紙物件目録(二)記載の道路から同目録(一)記載の道路を除いた部分に関する請求を却下し、その余の請求を棄却する。

五  訴訟費用は、本訴反訴を通じこれを二分し、その一を原告(反訴被告)の負担とし、その余を被告(反訴原告)株式会社アサ・コーポレーション及び被告荒川徳太郎の負担とする。

六  この判決は、第一及び二項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

一  本訴請求

1  主文第一項同旨

2  被告(反訴原告)株式会社アサ・コーポレーション(以下「被告会社」という。)及び被告荒川徳太郎(以下「被告荒川」という。)は、原告(反訴被告。以下「原告」という。)に対し、連帯して二九四二万一二〇二円及び平成五年一月一日から支払済まで一日当たり九万九四八四円の割合による金員を支払え。

二  反訴請求

原告は、別紙物件目録(二)記載の道路(以下「本件道路二」という。)をその営業の用に供する用法によって使用してはならない。

第二  事案の概要

一  争いのない事実

1  原告は、ハンバーガー販売店を全国的に展開する株式会社であるところ、平成四年六月一九日、国道二〇号線に面した東京都杉並区下高井戸二丁目二五四番一他四筆に所在する、梅本耕司及び同喜三郎(以下「梅本ら」という。)所有の一〇階建建物アコール桜上水の一階及び二階部分を賃借し、同所においてマクドナルド二〇号桜上水店(以下「本件店舗」という。)を新装開店した。

2  本件店舗においては、乗用車で来訪した顧客が乗車したまま入口に設置されたマイクを通じて内部に注文を伝え、出口付近で注文に係る商品を代金と交換に受領して再び道路に出る、いわゆるドライブ・スルー方式(午前七時から午後一一時まで営業)を採用している。本件店舗は、その正面(南側)が東西に走る国道二〇号線に面し、その西側面が南北に走る別紙物件目録(一)記載の道路(以下「本件道路一」という。)に接しており、ドライブ・スルーの入口は、国道二〇号線から本件道路一に二〇数メートル程進入した付近のアコール桜上水の敷地西北側に設置されている。

3  本件道路一は、幅員約五メートルの私道であり、南北に走る境界によって数筆に分けられ、隣地所有者である梅本ら及び被告らが、それぞれの所有地に接する本件道路一の各筆を所有している。本件道路一は、梅本らの同意によって、被告荒川の申請に基づき、昭和四五年五月二五日、建築基準法四二条一項五号の道路位置指定を受けており、うち一部(別紙物件目録(一)ないし三の土地。幅員約3.2メートル相当部分)の登記簿上の地目は公衆用道路とされている(なお、右道路位置指定は本件道路二を対象としており、本件道路一は本件道路二の南側の一部である。)。現在、本件道路一付近に接して、アコール桜上水、被告ら所有建物(マンション二軒)及び民家十数軒が既存建物として存在している。

4  被告らは、本件店舗の開店当日である平成四年六月一九日以降、本件道路一上にA型鉄製バリケード及びカラーコーン等を置く等した(以下「本件妨害行為一」という。)。原告は、これに対し、妨害排除仮処分申請に及び、同申請に係る決定(東京地裁平成四年ヨ第四五二四号。甲一)に基づく保全執行(東京地裁平成四年執ハ第八四五号、八四六号。甲二)によって、同年七月二八日、右妨害物を排除した。さらに、被告らは、同年八月中旬ころ、本件道路一上約一〇メートルにわたり「私道につき、ドライブ・スルー使用禁止 マクドナルド反対同盟 代表荒川徳太郎」と書かれた横断幕を掲揚した(以下「本件妨害行為二」という。)。

二  原告の主張

1  本件道路一は、位置指定道路であり、また道路交通法にいう道路と解されるから、私人は、右道路の通行利益につき民法上保護に値する自由権(人格権)を有し、右自由権を侵害されたときは、右権利に基づいて妨害の排除や予防をすることができる。ましてや、本件道路一は、被告ら所有土地と、梅本ら所有土地が合体して一体として位置指定を受けているものであり、原告は、右本件道路一の所有権者の一員である梅本らから右道路に接する本件店舗を賃借しているものであるから、原告関係者による本件道路一の通行は、一般人としての通行のみならず、右梅本らの本件道路一所有権に淵源する側面をも有する。

被告らは、右原告の権利を認めることなく、本件妨害行為に及んだうえ、原告による本件道路二の営業用の使用の禁止を求めているものであり、よって、原告は、右権利に基づき、被告らによる妨害の予防を請求する。

2  原告が被告らの本件妨害行為一および二により被った損害は、以下の通りである。

(1) 逸失利益

① 平成四年六月一九日から七月二八日まで(四〇日間)

一一七八万三三六七円

〔但し、この間の本件店舗の売上金額を二一五八万四〇〇〇円、同年六月ないし八月の東京地区の原告各店舗の総売上金額に対するドライブ・スルーによる営業による売上金額の比率(D/T率)の平均を44.1パーセント、売上原価率を30.8パーセントとする。〕

② 平成四年七月二九日から同年一二月三一日(一五六日間)

一五五一万九四八四円(一日当たり九万九四八四円。別紙三参照)

③ 平成五年一月一日以降

一日当たり九万九四八四円

(2) 保全執行に要した費用等

二六万六八九二円

(3) 保全事件弁護士報酬及び本件訴訟弁護士着手金 一五四万五〇〇〇円

(4) 本件妨害行為一期間中の対抗用増員費用(四名分)三〇万四四五〇円

三  被告らの主張

1  本件道路一ないし二(以下「本件道路」という。)のような位置指定道路においては、その維持、管理は敷地所有者等に委ねられているのであって、その所有者が付近の平穏を保ち、道路の破損を防止する等のために場合によっては自動車の通行を制限することも許されるものである。また、被告会社は、本件道路の位置指定を得るにつき多大なる尽力をし、また道路開設費として一五〇〇万円を費やしたもので、本件道路二は本来は被告会社建築に係るマンション居住者のために設置された私道であり、被告会社がその道路管理者に当たると解するべきである。被告会社が本件道路二の開設、管理、維持に要した費用は別紙四のとおりである。

2  原告が、本件店舗においてドライブ・スルー方式による販売方法をとったため、本件道路には自動車の連続進入が頻発し、付近の平穏が害される状態が続いている。本件道路をドライブ・スルー方式による物品販売目的の一環として利用する等、不特定多数の客の来集を求めて専ら原告自身の純粋な営業目的のために無断無償で利用することは、本件道路の利用形態としてはその権原を踰越するものであり、被告らには、本来不必要な右原告による本件道路の営業目的利用を禁止する権限がある。

四  争点

1  本件道路について、原告の営業目的による利用の可否及び被告らによる右利用妨害権限の存否

2  原告の被った損害

第三  争点に対する判断

1  争点1について

1  本件道路は、建築基準法上のいわゆる位置指定道路であり、また、道路交通法上の道路に当たると解されるところ、私人は、右道路につき直ちに私法上の権利を取得したものとは解しえないものの、日常生活上必要な通行利益を有する限り、右通行利益につき民法上保護に値する自由権(人格権)を有し、右自由権を侵害されたときは、右権利に基づいて妨害の排除や予防をすることができると考えられる。しかも、本件道路一については、被告ら所有土地と梅本ら所有土地が一体として位置指定を受けていることは争いがなく、また、原告は、右梅本らから右道路に接する本件店舗を賃借しているものであり、梅本らは原告による本件道路のドライブ・スルー方式による利用を容認し、これを前提に本件店舗を賃貸しているものと認められる(甲一四、弁論の全趣旨)。

すると、原告は、単に本件道路を利用する公衆としての私人にとどまらず、本件道路一所有者の一員である梅本らの本件道路一に関する地位を援用し得る立場にあるものと認めるのが相当である。

2 本件道路につき被告会社は自身がその道路管理者である旨主張するが、その所有する土地を持ち合って建築基準法上の道路の要件(幅員四メートル以上。被告ら所有土地のみでは右幅員に足りないことは争いがない。)を満たし、位置指定を受けた本件道路のような場合、単にその拠出面積の多寡や道路開設費用等の支出の多寡等のみをもって、道路の管理者を判断することは出来ない。関係する道路所有者は、それぞれ所有地を含む道路部分の幅員の全体につき黙示に利用権を認めあったものと解され、反対趣旨の特段の合意がない限りは、右所有者は一体として右道路を利用する利益と権限を有すると解するべきであり、現在の社会通念に照らせば、車両の通行利益もこの中に含まれるというべきである。また、この場合、右道路隣接地における営業自体が私権の実現として社会的に許容され得るものである限り、必要な通行利益の中から営業目的による通行を除外することは相当でない。

3 以上を前提にすると、本件道路一の所有者間において、本件道路一の利用形態や管理形態につきその管理を被告らに委ねる等の一定の合意が成立していることを認める証拠はなく、むしろ梅本らは、原告による本件道路一の現状の利用方法を容認していると認められることは前述のとおりであるから、その他、原告による右道路利用が社会通念上許容しがたいものであること等、特段の事情のない限り、本件において、原告による営業目的での本件道路一利用を禁止するまでの権限は被告らにはないというべきである。

また、現実に原告のドライブ・スルー方式による営業のために直接利用されているのは本件道路一の部分であることは弁論の全趣旨から明らかであるから、いずれにしても本件道路二のうち本件道路一以外の部分については、その余について判断するまでもなく、現時点において原告による利用の禁止を求める訴えの利益を被告会社に対し認めることはできない。

なお、被告らは、原告のドライブ・スルー方式による営業により、本件道路には自動車の連続進入が頻発し、付近の平穏が害される状態が続いていると主張するが、本来、幅員五メートルの道路とされている以上、一定の自動車の進入は避け難いものであり、右進入の方式、形態等が被告らの生活を脅かす程の過度の侵襲行為に当たると認めるに足りる証拠はない。

4 よって、被告会社が求める原告による営業目的での本件道路利用を禁止する反訴請求は失当であり、前記のとおり却下又は棄却されるべきものであり、他方原告が求める原告の本件道路利用に対する被告らによる妨害の予防請求は、争いのない事実欄記載のこれまでの経緯及び弁論の全趣旨に照らし、理由があるというべきである。

二 争点2について

1 前記一において判示したところに照らせば、被告らに少なくとも本件妨害行為一を行う権限を認めることはできず、右行為は社会的相当性を欠くものといわざるを得ないから、これにより原告の権利を侵害したと認められる場合には、右被告らの行為は不法行為として、相当因果関係の認められる損害を賠償する責任を負うことになる。もっとも、本来、原告が有する本件道路一の通行権限は、独占的排他的なものではなく、他の道路所有者等との利益調整を伴わざるを得ない性格を有し、原告主張の得べかりし利益自体がそもそも不確定要因を多々含むことをも踏まえると、原告において主張する損害をそのまま被告らの責任に転嫁することは相当とはいえず、むしろ本件妨害行為一により社会通念上発生することが被告らにおいても予測できた範囲内の損害賠償義務を被告らに負担させることが、公平の観点からも相当である(本件妨害行為二については、「ドライブ・スルー使用禁止」との記載は、前記判示に照らせば相当性を欠くものの、直接的に通行を妨害したものとまでは認めがたく、前記のような利益衡量を踏まえると、これに基づく損害賠償請求を認めることは相当ではない。)

2 すると、先ず、原告が被った逸失利益相当損害については、本件妨害行為一が現実に存在した平成四年六月一九日から七月二八日までの四〇日間に限って検討されるべきであり、ドライブ・スルー方式による営業が現実に可能となった翌七月二九日以降について原告主張のような売上の減少が認められたとしても、これが本件妨害行為一のその後の影響や本件妨害行為二の影響によるものと直ちに認めることはできないし、社会通念上当然にこのような波及的、長期の影響の発生が予測可能であったと解することもできない。

3 また、原告は、D/T率に基づき、ドライブ・スルー方式による営業ができなかった逸失利益を算定しようとするが、ドライブ・スルー方式による営業ができない場合でも、客はその他の方式(付属の駐車場の利用、他の地点で停車のうえ徒歩による利用等)により本件店舗を利用することも不可能ではなく、このような代替利用の可能性を否定して、直ちに他の店舗のD/T率等を前提とした逸失利益の算定を行うことは適当ではない。

さらに、原告は、原告会社の開発した売上予測手法としての重回帰モデルによる予測値(初年度月商二二〇〇万円ないし二三〇〇万円。甲四)と実際の売上との差額を基礎とした損害額を提示し、平成四年一二月末日までの損害について考えると、右重回帰モデルによる損害額と、D/T率に基づく前記損害額とはほぼ同程度になる旨主張する。しかし、当初の売上予測と現実の売上との乖離については、様々な要因が考えられ、現に被告らによる妨害行為一及び二終了後(平成六年一二月ころ以降)も原告の売上は当初予測値(開業三年度で月商二四七二万円、同四年度で同二五九六万円。甲四)に達していないことは原告の主張自体及び弁論の全趣旨からも明らかというべきであり、特定の売上予測(原告内部においても当初売上予測について様々な見解があったことは甲四参照)を前提にして、現実の売上との差額を直ちに被告らの本件妨害行為によるものと認めることはできない。

4 すると、原告主張のD/T率(平成四年六月ないし八月の東京地区の各店舗の平均)が44.1パーセントであること(甲一六)及び社会通念をも踏まえ、むしろ端的に、平成四年六月一九日から七月二八日までの四〇日間については、本件妨害行為一によりドライブ・スルー方式による営業は停止されざるを得ず(甲一、二、証人本木、弁論の全趣旨)、これにより少なくとも二割の売上減が生じ、右程度の損害の発生は被告らにおいても十分に予想し得たと認めるのが相当である。これによれば、同期間の本件店舗の売上金額を二一五八万円(以下いずれも一万円以下切り捨て)、原価率三二パーセント(甲一六、一七、証人本木、弁論の全趣旨)を前提にして計算すると、得べかりし売上金額は二六九七万円、逸失利益は三六六万円となる。

5  原告主張のその余の損害については、保全執行に要した費用等少なくとも二六万六八九二円(甲一五の一、証人本木)、本件妨害行為一期間中の対抗用増員費用(四名分)三〇万四四五〇円(甲一八、証人本木)については、これを本件妨害行為一と相当因果関係のある損害と認めるのが相当であり、保全事件弁護士報酬及び本件訴訟弁護士着手金相当損害としては七〇万円の範囲で本件妨害行為一と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である(甲一、二、弁論の全趣旨)。

6  以上を総合すると、被告らに支払義務を負担させるのが相当な損害額は合計四九三万一三四二円となる。

三 以上によれば、原告による妨害予防請求は理由があるからこれを認め、損害賠償請求については、合計四九三万一三四二円の支払を求める限度で理由があるからこれを認め、その余は棄却し、被告の反訴請求のうち本件道路二から本件道路一を除いた部分の道路に関する請求は訴えの利益を欠くからこれを却下し、その余の請求は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官菅野雅之)

別紙<省略>

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